五代目は雲丹以外でも手毬ずしをよく作ります。
カワハギは肝を載せてシュウマイ風にしたり、ネギトロを赤身で巻いたり、イクラはサーモンで巻たりと…
雲丹の手毬寿司はそもそもは、3月の桃の節句のときに特別に作っていた手毬ずしに始まります。
こはだや海老、鯛、鮪などを彩りよく手毬にして盛り付けていました。
当時の写真が見当たらないので確認できませんが、そのときは雲丹は手毬にしていなかったと思います。
雲丹と白身を組み合わせるきっかけとなったのは別の機会。
以前赤坂プリンスホテルの中に、弁慶橋清水という料亭がありました。
そこで会食したときに、刺身のなかに、雲丹を鱸で挟んだものが出まして、
白身魚と雲丹があまりに相性が良いので、店で早速握りに取り入れたのが最初です。
当初は鯛の切り身にさらに包丁を入れ、袋状にしたところに雲丹を包むように入れて握ったものでした。
形としては、普通の江戸前にぎりのものですね。
味付けも、刷毛で醤油をさっとぬったもの。
しかし、その握り方ですと、雲丹の風味が口中に広がるのに時間がかかりました。
そこで考えたのが手毬寿司の形態です。
手毬ずしもはじめのうちは、しゃりの上に雲丹を載せて、そこに薄く削いだ白身を被せて丸めるというやり方。
これは見た目はとても美しかった。
まるで雲丹のオブラート包みのような感じでしたから。
ただこれだと、海苔の代わりに白身を使うということにはなりません。
それならばということで、漸く今の形に行き着いたわけです。
ここに至るまで、長い試行錯誤でした。
最近では、ほかのお寿司屋さんでもこのような手毬寿司を見かけるようになってきました。
食べ物の形や味に特許が存在しない以上、自分の作ったものがほかで参考にされるというのは、ある意味で光栄なことなのです。
いつの日か、五代目の雲丹の手毬寿司や、カワハギのシュウマイ寿司が、ポスト軍艦巻きのスタンダードになる日がくれば、こんな嬉しいことはありません。
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