江戸前寿司になくてはならないネタといえば、まず鮪ですね。
以前、忙しい晩のこと。
仕入れのバランスがよくなかったのか、早い時間に鮪だけがなくなってしまったことがありました。
ほかのネタは十分にケースに並んでいたのですが、まぐろが売り切れてしまった途端、四代目が突然お店を閉めてしまったのです。
五代目が唖然としていると、四代目がひとこと「鮪がなくてすし屋やってられるか!」というわけです。
その頃の五代目は、鮪も数多くあるネタのひとつと思っていましたから、他のネタを上手く使えば普通に営業できるのに!と憤ったものです。
いまでは鮪こそ、現代の江戸前寿司の王道のネタだということは分かりますし、鮪なくして江戸前寿司を謳うなど考えられないようになりましたが、その頃はまだ若かったんですね。
そして、当時も四代目は歴とした江戸前寿司の職人だったわけです。
さて、そんな存在感バリバリのまぐろですが、八幡鮨では戦前の昔からこだわってきました。
こだわりとはどんな所にこだわるのか、と言われれば「味」ですね。
昔も今も八幡鮨のまぐろは生。
冷凍ものは一切使うことはありません。
生といっても、ただ単に生なら良いというわけではなく、その日に築地に入ったものの中でもトップクラスのもでなければいけないのですね。
その点八幡鮨には歴史があり、鮪問屋さんとは70年のお付き合いがあります。
その鮪問屋は稲良商店(いなりょうしょうてん)さんといって、上物を扱うお店として有名で、八幡鮨に対してこのお店の大番頭さんが、代々責任をもって受け持ってくれています。
そのようなわけで、ふつう八幡鮨のような街場のすし屋では仕入れられないような最上級のまぐろを、最優先で回してくれるのですね。
ただし、現在では産地というものにはあまりこだわりません。
国内の近海物であればそれに越したことはないのですが、一年中近海ものが美味しいというわけではありませんから。
有名な大間の本鮪は冬にこそ本領を発揮してくれるのであって、それ以外の時期は少なくとも八幡鮨では使いません。
秋にはボストンなどの、北米の東海岸沖の、魚体200kg前後のものが断然美味しいわけです。
それを一週間ほど熟成させたときの、美味しいことといったらありません。
夏前後の、ニュージーランドやオーストラリア近海で獲れる本鮪も、その時期では一番だと思いますしね。
何しろ、お客様に食べていただくものですから、これこそがいちばん旨い!というものを仕入れるように努力するわけです。
本鮪のことばかり書きましたが、100kg前後のばちまぐろだっていけるんですよ。
ですから、何より美味しいものを仕入れることを目標にしている次第です。
鮪にこだわって約1世紀。
これからも最上のまぐろを皆さんにお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ちなみに八幡鮨のまぐろですが、さる有名な銀座の高級店と同じものなんですよ(^^)
このお店の名前は、稲良さんから口止めされていますからお教えすることはできないのですが・・・
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