季節が変わると海の中も様相が変わってきます。
冬場に美味しかった小肌はこの頃になると脂が少なくなってきます。
小肌の旨いのは晩秋から翌春にかけてでしょうか。
夏には新子という形で出回りますが、それは季節感という意味で珍重されるのであって、味という点では冬の小肌には遠く及びません。
春になったこの時期の締めものですと春子(カスゴ)鯛がございます。
連子鯛や真鯛の子供を指すのですが、これを酢締めにしたものを言います。
字で書くと春子となりますね。
穴子の小ぶりのものをメソと呼ぶように、カスゴも言葉としては本来はあまり良い意味ではありません。
つまり小さいものや相手にされないものをみそっかすと呼ぶものものを、みそっかすのカスをとってカスゴ→春子と呼んでいるのですね。
メソも同様でして、みそっかすの訛ったものだと言われています。
話が逸れて国語の授業になってしまいましたね。
そのようなわけで春子鯛はこの時期に美味しい魚の一つです。
光り物では小肌に代わって鯵や鰯にも脂が乗ってきて美味しくなりますね。
キラキラと光ったさよりも春らしくて人気があります。
では貝はどうでしょう。
春の貝といえば断然にとり貝ではないでしょうか。
殻付きのまま仕入れたとり貝は貝剥きを使って手早く剥きます。
生のとり貝はものすごく元気がいいので、殻のまま放置しておくと自分の舌を使ってすぐに動き回るんですよ。
さて、剥いたとり貝は熱を通さずに生のままいただきましょう。
味付けは塩か酢醤油で。
磯の香りが口いっぱい広がって幸せな気持ちになりますね。
江戸前寿司の王道の鮪はどうでしょう。
冬の津軽海峡から本州近海におりてきた本鮪は、主な餌が烏賊から鰯などの魚に代わってきて、味自体も微妙に変化しています。
特に赤身は鉄分が少し減ってきたのか、味もまろやかになった気がします。
ですから赤身は煮切り醤油のヅケではなく、酢醤油の軽いヅケにしています。
そしてトロですが、これはフレンチバスクの塩「サリス・ド・ベアルン」でお出しします。
このお塩は本来はハムなどの肉製品に適したものでありますが、口溶けが殊のほか早いので魚の味を際立たせてくれるので、五代目はこのお塩を珍重しているんですね。
こうして書き出しているとキリがないので、今回はこのへんにしておきましょうか。
召し上がる魚で季節の移り変わりを感じていただけるのはお寿司ならではですから、ぜひにお楽しみくださいね。



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