物事が進化するのは世の常でして、伝統=保守であるべきとは考えません。
よくお客様に、長年やってきてずっと変わらない味はありますか?と聞かれますが、百年前から全く味を変えないでいるものなどありませんと答えます。
何かの本で読みましたが、主観的に見る伝統とは概ね自分が生きてきた間の、さらに自分の記憶にある時代の中のものでしかないというようなものだった気がします。
神事や仏事における伝統などは別として、料理などの味に関するもので百年も二百年も変わらない味のものなどそうは見受けられないのではないでしょうか。
お寿司にしても砂糖の貴重だった時代のシャリの味と現代とでは大きく変わるでしょうし、八幡鮨でも四代目の若い頃(かれこれ五十年ほど前)に大幅に減塩にして今に至ります。
時代や世代を超えて一つの味を踏襲して行くことよりも、時代や嗜好に合わせて改革して行くことのほうが余程大変なことなのかと思うことがあります。
例えば戦後間もない頃に四代目が考案したきゅうり巻にしても、きゅうりを生のまま食べるという発想がない当時においては、その先代たちからも当初は受け入れられないということがあったわけですし、五代目が考案し今では不動の人気を博している雲丹の瑞雲も四代目からはなかなか認めてもらえませんでした。
そういう考えの五代目ですからいつも目新しいことを探しています。
数年前に焼き秋刀魚とあん肝のサンドイッチを作ったのこときっかけで、八幡鮨版フィレオフィッシュが完成しました。
レタスでラップして食べるそれは、現在おまかせ握りの中の1種としてお出ししています。
レタスの葉の上に軽く炙ったあんきもを載せ、あんきもには穴子の甘いタレを塗ってます。
その上に丸く握ったシャリ玉を積み上げ、さらにその上にカマスの炙りを載せています。
あんきもに甘いタレを使っているので、甘と辛で味のバランスを取るためにカマスの上にはもみじおろしと酢醤油を載せて、彩りに小葱を天盛りに。
シャリの代わりにアボカドを挟むこともありますが、アボカドは食感も味もあんきもに近いのと、あくまでも握り寿司の一環としてお出ししますので、やはりシャリ玉の方がしっくり来るようです。
順番としてはおまかせ握りの中盤あたりで登場しますが、皆さん目を輝かせて召し上がってくださいます。
五代目の信条は「答えはお客様がくださる」ですので、皆さんの満面の笑みで確信します^^
江戸前の仕事を施した握り寿司が中心ですが、このようにたまに目先の変わったものが登場するのも楽しいと思いますので、是非是非カウンターでのおまかせ握りをご予約くださいませ。

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